身ごもり政略結婚

しかも、窓から見える景色は圧巻で、眼下に広がる街が自分の持ち物になったような錯覚すら感じる。


「さあ、どうぞ」
「お邪魔します」


促されてリビングに足を踏み入れたものの、ここでこれから生活するなんて実感が湧かない。

リビングには白い革張りの大きなソファと、五十インチくらいはありそうなテレビがある。

そしてダイニングテーブルは八人掛けで、ガラスのテーブルにシンプルな黒のイスが置かれていてすこぶるおしゃれ。

センスのいい人なんだ……。

そんなことも知らずに結婚したのが自分でも信じられないが、これは現実だ。


「結衣は紅茶?」
「あっ、須藤さんは座っていてください。私がやります」


もうお客さんじゃないのだからと須藤さんに続いてこれまた広いキッチンに行くと、彼は初めて会ったときのような柔らかい笑みを浮かべて私を見つめる。


「結衣も〝須藤さん〟になったんだよ。大雅でいい」


そっか。もう私は須藤結衣なんだ。
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