身ごもり政略結婚
「はい。それでは……大雅、さん」
名前を口にしただけなのに、心臓が飛び跳ねている。
こんなことでやっていけるかしら?
「うん。これからよろしく」
「はい。よろしくお願いします」
頭を下げると彼は頬を緩めた。
政略結婚の話を持ち出されてさえいなければ、とても好印象の紳士なんだけどな。
あんなに冷めた発言をした人だとは思えない。
それからキッチンの使い方を簡単に聞いたあと、紅茶を淹れてソファに並んで座って飲むことにした。
「疲れたよな?」
「は、はい」
正直に答えると、彼はカップをテーブルに戻して私の方に顔を向ける。
「新婚旅行、先延ばしにしてごめん」
「そんなことはいいんです。式もわがままを聞いていただきましたし」
重要な仕事が進行中らしく、長い休みを取れなかった。
でも、私も千歳のことが心配なので、まったく気にしていない。
それに、今の緊張した状態で彼と旅行に行っても疲れてしまいそうだ。