身ごもり政略結婚

私たちの間に〝愛〟という概念がないのはわかっているが、男の人とひとつ屋根の下で暮らしているのだから、そうした胸の高鳴りはどうしたってある。

というのも、私をいつも情熱的に抱く彼のせいだ。


「麻井が来るまであと二十分か」
「はい。ひと口でもいいので食べてください」


私は彼の前に鮭の塩焼きや大根の味噌汁、十穀米などを並べていく。

大雅さんは結婚したあと、「好きなように使って」とブラックカードを渡してきた。

だから、実家にいた頃よりちょっぴり高めのスーパーでも思う存分買い物ができる。


「うん、いただきます」


食べ始めた彼の向かいに座って、私も箸を伸ばした。


実はこうしてふたりで食事を食べられる時間はとても貴重だ。

一緒に生活しだしてわかったのは、彼が仕事人間だということ。
朝出ていくと夜遅くなることが多く、夕食を済ませてくることも多い。

さらには帰ってきてからも仕事をしていることがあって、話しかけられる雰囲気ではない。
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