身ごもり政略結婚
しばらくするとどうやら父も戻ってきたらしく、調理場から微かに声が聞こえてくる。
「まあ、これかわいらしいわ」
「ありがとうございます。この時期にしかお出ししない紫陽花(あじさい)です。当店自慢のこし餡を求肥で包み、紫陽花をイメージして寒天で装飾を施しました」
これも私のデザインしたもの。
このような紫陽花を作る和菓子店は多いが、周りにまぶしている水色や薄紫の寒天をかなり細かく切ることで、切り絵のように紫陽花の雰囲気を表現したあと、ようかんで作った葉の上に乗せている。
こうしたアイデアを大雅さんが欲していることを知っているので、最近はますますたくさんの新作を考えるようになった。
「こちら、ふたついただくわ。あとは――」
それからいくつも購入してくれたお客さまは、ニコニコ顔で帰っていった。
自分たちが大切にしてきたものや、必死に作ったものが喜ばれるのは本当にうれしい。
……はずなのに、なんだか今日は体が重くて笑顔を作るのに必死にならなくてはいけない。