身ごもり政略結婚
「結衣さん、冷や汗かいてません?」
「どうしたのかな……。ちょっと体調が――」
それきり話すのもつらくなった私は、その場でしゃがみ込む。
驚いた土井さんが調理場の父を呼んだ。
「結衣、どうしたんだ?」
「大丈夫、だから仕事に戻っ――」
心配かけまいと明るく振る舞おうとしたのに、今度は頭がふわふわしだして目を閉じる。
「春川、ちょっと頼む」
私はそれから春川さんに抱きかかえられて、奥の休憩室に連れていかれた。
「結衣さん、やっぱり体調が悪いじゃないか。病院に行こう」
「大丈夫。少し休ませてください」
春川さんとそんな会話をしながら、私はあることに気づいていた。
生理がきていない……。
大好きなはずの餡の匂いがダメなんて、これまで一度もなかった。
でもこれがつわりだとしたら……。
こんなとき、母が生きていればすぐに相談きたのに。
父には言いにくいし、多分聞いてもわからない。