身ごもり政略結婚

「結衣さん、冷や汗かいてません?」
「どうしたのかな……。ちょっと体調が――」


それきり話すのもつらくなった私は、その場でしゃがみ込む。
驚いた土井さんが調理場の父を呼んだ。


「結衣、どうしたんだ?」
「大丈夫、だから仕事に戻っ――」


心配かけまいと明るく振る舞おうとしたのに、今度は頭がふわふわしだして目を閉じる。


「春川、ちょっと頼む」


私はそれから春川さんに抱きかかえられて、奥の休憩室に連れていかれた。


「結衣さん、やっぱり体調が悪いじゃないか。病院に行こう」
「大丈夫。少し休ませてください」


春川さんとそんな会話をしながら、私はあることに気づいていた。

生理がきていない……。

大好きなはずの餡の匂いがダメなんて、これまで一度もなかった。

でもこれがつわりだとしたら……。

こんなとき、母が生きていればすぐに相談きたのに。
父には言いにくいし、多分聞いてもわからない。
< 66 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop