身ごもり政略結婚

うとうとしたり起きたりを繰り返しているうちに、玄関のカギが開いた音がして迎えに出た。


「おかえりなさい」
「ただいま」


頬が赤い彼は、接待で飲んだのだろう。

靴を脱いだ大雅さんからカバンを預かろうとしたとき、フワンとアルコールの匂いが漂ってきて吐き気を催し、手で口を押さえた。


「どうした?」


心配げに私の顔をのぞきこむ彼が肩に手を置いたが、離れたくてたまらない。


「ごめんなさい。アルコールの匂いがダメみたいで……」
「えっ? すまない」


驚いたように手を離した彼は、私から遠ざかる。


「すぐに着替えてくる。待ってろ」


酔っているように見えたのに、受け答えはハキハキしている。

大雅さんはひどく慌てた様子ですぐさま去ったが、私はその場に座り込んだ。

つわりが始まると、今まで気にならなかった匂いがダメになる人もいると聞いたことはあるけれど、まさかこれほどとは。
< 70 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop