緑の風と小さな光 第2部
散歩を終えても、手に両親から流れて来た何かが残っている気がした。

…しばらくはこの手をそっとしておこう…

セレはそう思ったが

「セレ様、もうすぐ晩餐会が始まりますよ。テーブルにつく前に手を洗って下さい。」

と侍女に言われた。

「…」

セレは黙って逃げ出した。

だが、セレは生まれつき心臓が弱かった。そのせいで王位を継ぐ事ができず、ひっそりと離宮で暮らしていたのだ。

その心臓が逃げ続ける事を許してくれなかった。すぐに苦しくなって動けなくなり、侍女にあっさり捕まった。

さほど抵抗もできず、セレの手は冷水で洗われた。

取っておきたかった温もりは水と共に流れていった…

セレはついに泣き出した。

両親が驚いて理由を尋ねたが

『何でもありません』

『お騒がせしてすみません』

セレはそう繰り返すばかりだった。

ヤールは先に席について待っていたが、兄が涙を流しているのを見て驚いた。

「私が見たのは泣きながら席に着く兄様の姿だけだ。

兄様から理由を聞いたのは、その後10年も経ってからさ。

この事を他人に話すのも初めてだ。

誰にも話すな、と兄様から言われていたから…でももう時効だろう。」
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