緑の風と小さな光 第2部
ローエンは『セレは物心がついてからは泣いたことが無い』とヴァシュロークから聞いていたので、その話しは意外に思えた。


「泣いた理由を兄様が言わなかったのは何故だかわかるか?

自分が父上と母上を恋しいと思っている事を悟られないようにだ。」


「小さな子が親を恋しがるのは当たり前でしょう?何か困る事でも?」


「父上と母上に『セレに寂しい想いをさせている』と感じさせたくなかったのさ…」

「…5才でそんな事を…」


「その時から変わっていないよ兄様は。

自分が感情を出す事で、周りの人がどうなるか…それを最初に考えてしまうんだ。

大切な人の笑顔を消す様な事は絶対にしない。」


ローエンもヴァシュロークも、セレを感情が無い人間だと思った事は無い。

しかし、ヤールの言うとおり『大丈夫だ』とどこかで思っていたかもしれない。


「兄様は、特に、母上には絶対に言うな、と私に念を押した。

『セレの気持ちをどうして解ってあげられなかったのだろう』と母上がご自分を責めてしまわれる事を心配したのだ。

…そういう人なのだ兄様は…だから誤解されるんだ…

この人には何を言ってもいいのだと…」
< 8 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop