ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
◇◇◇◇
どうなるんだろう私たち、これから。
思考はそこに停まったまま、動かなかったけれど。
どんなに気分がブルーだろうと、どん底まで落ち込んでいようと。
お構いなしに日は昇るし、沈んでいく。
仕事は、私の都合なんて待ってくれない。
そして悲しいかな、それを無視してサボることなんて私にはできなくて。
コンペ案に見積作成、スタッフィングにオリエンに……山積みの業務をこなしていれば、ありがたいことになんとか気持ちも紛れた。
そうして、感情を殺すようにして1日1日をなんとかやり過ごして――……
――結婚? 考えたこともありませんね。
撮影立ち合いのため、会社から新宿三丁目へ徒歩で向かっていると。
ふいに、聞き慣れた甘い声が、空から降ってきた。
振り仰ぐと、家電量販店のビル壁面。
設置された大型ビジョンに、ライアンのドアップが映っていた。
「見てみてっ御曹司よっ!」
「ほんっと、いつ見てもマジかっこいぃよねえ」
OLらしき女性たちが、あちこちで足を止めて、うっとりと同じ方向を仰いでる。
――今現在、特別な女性はいないということですか?
――女性はすべて、特別ですよ。
画面の中の美貌の男は、甘ったるいウィンク付きでワイングラスを掲げ、けむに巻いた。
途端に周囲から、ハートマークつきの黄色い歓声が沸く。
「あの目で見つめられたら、なんでもしちゃうよね?」
「するするっしちゃうっ!」
「遊びでも全然いいよね?」
「いいっ! むしろ遊ばれてみたぁい!」