ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

糖度を増した眼差しが私をじっと見下ろしていて、
トクンと、鼓動が跳ねた。

いつまでたっても慣れないな、これ……

同棲を始める前までは、いってらっしゃいのキス、なんて砂糖に蜂蜜をまぶしたみたいな習慣、まさか自分がすることになるとは思わなかった。
そういうベタ甘なのって、むしろ苦手だったし。

でも愛し合う者同士のマストだと力説されて、押し切られちゃったのよね。
そしていざ始まってしまえば、慣れてしまうもの。
ただ一つ問題があるとすれば、いつもバードキスで終わらな……――


チュッ

……え?


シャープな白い頬が、セクシーな唇が、あっけなく離れていく。

「行ってきます。今夜も遅くなると思うから、先に休んでて」

「あ、うん……いってらっしゃい」

カチャン

玄関先に一人立ち尽くしながら、「?」って首を傾げていた。

今のキス……なんか、前と違う?
すごくあっさりしてるっていうか。

もしかして……昨夜、デキなくて……怒ってるとか?

ううん。
そんなことあるはずないわよね?
だって止めたのは、彼の方だ。
私の身体、心配してくれたからで……

釈然としないものを感じたけれど、出勤時間は待ってくれない。
私も早めに出なきゃいけないんだから。

頭を振って雑念を払うと、パタパタと廊下を引き返し始め――足が止まった。
そういえばライアン、昨夜のスーツどうしたんだろ?

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