ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「あら、やっぱり会っちゃったわね」

会議室のドアの前、トップモデルのようなポーズを決めて立ち、どことなくうれしそうな口ぶりで言ったのは――

「シンシア……」

坂田が、手で顔を覆い。
「だから出てけって……」天井を仰いだ。

コツコツコツ……

人の波をかき分けるようにして、彼女が近づいてくる。
インタビュー用の衣装だろうか、深いスリットの入った真っ赤なチャイナドレスは、グラマラスな彼女にとても似合ってる。

まさに主役と言った輝きを放つその人を見つめ、言葉を失って棒立ちになっていると。
彼女がこちらに足を進めるにつれ――あの香水だ、煮詰めた蜜のような甘ったるい香りが、私をからめとるように包んだ。

まずい、そう考える間もなく。

「っ……」

せりあがってくる息苦しさ。
同時に、胃の奥へ汚泥が溜まっていくような心地がして、とっさに唇を噛んだ。


「可哀そうにね、ライに捨てられちゃったんですって?」

す、捨てられた?

「しょうがないわよ。彼ってもともと、一人の女で我慢できるタイプの男じゃないもの」

小声で告げられた秘密めいた言葉は、私にしか聞こえなかった。

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