ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
顔を上げると、人垣が割れて。
フロアをまっすぐ、こちらへ向かってくる彼が見えた。
高級ブランドのものらしいスリーピーススーツが、シルエットまで完璧に、憎らしいくらい似合うその人――
「ライ、ここは日本よ。日本語で話しなさいよ」
シンシアが、余裕たっぷりに美しく整えられた眉を上げる。
数メートルの位置まで近づいてくると、ライアンがさっと上から下まで、私の全身へ視線を走らせた。
その顔には、苛立ちとも困惑ともつかない表情が浮かんでる。
束の間、吐き気も忘れて彼を見つめ返した。
テレビではしょっちゅう見てたけど。
直接会うのは、何日ぶり? ううん何週間ぶりだろう?
思い知る。
自分がどれほど我慢していたか。
会いたくて。
触れたくて。
声が、聴きたくて……
あふれ出す想いに、視界が勝手に滲んでいく。
「ライア――」
口を半分開けたまま、硬直する。
世界から、すべての色と音が、消えたような気がした。
ライアンが腕を伸ばし――シンシアを抱き寄せたから。