ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
8. the worst
自分が何を見ているのか、理解できなかった。
その光景が、現実のものだとは思えなかった。
信じたくなかった。
ライアンが、他の女性を腕に抱いているなんて。
あの翡翠の瞳で、あんなに優しく、私以外の人を見つめるなんて――
「わざわざこんな所まで来なくてよかったのに」
拗ねたように言うシンシアの顎を長い指がすくい、自分の方へと向けた。
「迎えに来たんだよ。今夜の服、選ぶんだろう? 早く行こう」
彼女の視線を捉えると、ライアンは色気たっぷりに片目を閉じてみせる。
「あら、買ってくれるの?」
「仕方ないだろ。じゃないとお嬢様のご機嫌は直らない」
「当たり前でしょ。散々浮気を黙認させといて」
シンシアが頬を膨らませると、朗らかな笑い声が弾けた。
「ええっと? 僕はいつ君のものになったのかな」
「んもう、ひどい人ね。わかってるくせに」
甘えるような声、彼の首に巻き付く細い腕……
それはどこから見ても、長い付き合いの恋人同士のものだった。