ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
周囲を威圧するような低音が響き渡ると、
ざわめきは一瞬で静まり返り、カメラマンもピタッと手を止めた。
大股でフロアを横切ってくるのは、新条部長だった。
「撮影は会議室の中だけ、という約束だったはずだ。今の写真は、使用不可とさせてもらう。ネットでの流出も、一切認めない。万が一見つけた場合は、法的手段をとるから覚悟しておけ」
ええっ! と、人垣の向こうで残念そうな声をあげたのは、たぶん編集者だろう。
部長は、ギャラリーに構うことなく私の傍までやってくると屈みこみ、心配そうに眉間へ皺を刻んだ。
「きつそうだな」
「平気、です。少し座って休んで――……ぇえっ!?」
声が裏返っちゃった。
だって、いきなり部長に横抱きにされてしまったから。
「ぶ、ぶちょうっ、私、歩けますからっお、重いですしっ!」
「黙ってろ。舌噛むぞ」
再びきつくなった口調に、戸惑いながら口をつぐむ。
予想外の出来事に、吐き気もどこかへ行ってしまったくらい。
緊張に全身を強張らせたまま、目だけを上げると……剣呑に尖らせた眼差しを、部長は後方へと向けていた。
私の位置からは見えないけれど、たぶん、その先にはライアンがいる。
「お前は、金輪際出入り禁止だと通告したはずだが?」