ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
「え?」
訝る私の視線を受け止めた大河原さんの眼差しは、見たことないほど優しいものだった。
「先週だったかな、リー専務から電話をもらったんだ。休職することになったから、しばらく顔を出せないという話でね」
「……はぁ」
気の抜けたような返事にも機嫌を損ねた風はなく、大河原さんは淡々と続ける。
「私はね、てっきり謝ってくるとばかり思っていた。迷惑をかけて申し訳ない、ってね」
そこで言葉を切り、楽しそうにかぶりを振った。
「違ったんだ。彼は、一言もそんな類のことは口にしなかった。最高のスタッフが引き継ぐから問題ないと、自信満々に言うだけだった。その口ぶりには、少しの迷いも後ろめたさも、感じられなかった。だから、思ったんだよ。彼の行動はすべて、彼なりの信念に基づいたものなんだろう、とね」
「彼なりの……信念?」
大河原さんは大きく頷いた。
「真杉さん、信じてあげなさい、君の恋人を。お腹の子の、父親を」
「しんじ、る……」
――あいつを信じてやってください。無茶もする奴ですけど、考えなしに動くような男じゃない。きっと何か、理由があると思うんです。
この人たちは、まだ彼が私を想ってるとでも言うの?
「っわ、私だって信じたいです。でも……」
視線を揺らす私を励ますように、大河原さんが私へと身体ごと向き直った。
「君は、間違っちゃいけない。さもないと、私のようにずっと、後悔を引きずることになる」