ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
「飛鳥様! お帰りなさーい!」
シェルリーズホテルの裏手、雑木林のような庭園を通りぬけてレジデンスエリアへと向かっていると、元気な声が降ってきて。
顔を上げた私の視界に、高い脚立の上から手を振るマリーさんが飛び込んでくる。
「ま、マリーさん……何やってるんですか?」
「何って、剪定ですよ。これからの季節はぐんぐん伸びてきますからねえ」
「そんなこともやるんですか?」
「申し上げたでしょ。便利屋なんですって」
年齢を感じさせない明るい笑顔につられて、頬が緩んだ。
「夕食はどうされます? わたくしが何か、お作りしましょうか」
言いながら、脚立をするすると身軽に降りてくる。
それを眺めながら――帰る道々考えてきたことを、もう一度胸の中で繰り返した。
――信じてあげなさい、君の恋人を。お腹の子の、父親を。
本当に、信じていいのかな……
彼を、信じても……?
「え? 何かおっしゃいました?」
脚立を脇に抱えたマリーさんが、きょとんとこっちを見上げている。
慌ててなんでもないと取り繕い、そして。
「あの、マリーさん」
「はい?」
「……ライアンに、会いたいんです。協力してもらえませんか?」