ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
それからのマリーさんは、素早かった。
あちこちに電話をかけ、メールを送り……
30分もしないうちに、該当するホテルを突き止めてくれた。
――ギャリオンホテルのローズホール、こちらで間違いないと思います。宿泊はしてらっしゃらないようですが、シンシアさんの、日本ツアーの打ち上げとファンミーティングを兼ねたパーティーがあるそうですから、ライアン様も来場されるのではと。
しかも、『そのまま行くと、入り口でセキュリティガードに追い返されてしまうかもしれないから』と、中に潜り込む算段まで整えてくれて……あれよあれよという間に、今に至る。
ここにライアンが来るって言う保証はどこにもないけど……
シンシアは彼に今夜のドレスをねだってたし、可能性はあると思う。
「こんな直前に、無理を言ってすみません」
ごり押しにも関わらず引き受けてもらえて、井上さんにはもう感謝しかない。
深々頭を下げる私へ、彼女は「いいえ」と静かに微笑んだ。
「麻里さんには、以前随分お世話になりましたから。せめてもの恩返しです」
「えっと、2人はどういう……?」
「昔、パリのシェルリーズで働いておりまして。当時の上司が、麻里さんでした」
マリーさんが……上司!
意外な関係に驚く私を井上さんは楽しそうに見てから、「さぁ参りましょう」と促した。