ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
2. 疑惑②
――ねえ、忠告してあげたでしょ。早く別れなさいって。
絡みつくような、低い女性の声。
誰?
――彼は危険な男なの。わたしは彼を知ってる、あなたよりずっとね。
この甘ったるい匂い……フローラル系の、これは……
どこかで嗅いだことがある。
目の前に現れた美しい黒髪の女性は、私を見て妖艶な笑みを漏らした。
――平和ボケしたのほほんOLさん。彼は、わたしのものよ。
彼女が体格のいい男性にしなだれかかる。
振り向いたその人は……
ライアン?
叫びたいのに、声が出ない。
翡翠の瞳が、冷ややかに私を見下ろす。
――ごめんね、飛鳥。やっぱり僕には、父親なんて無理だった。
ちょっと待って!
どこに行くの!?
彼の腕が、女性の腰に回されて。
2人は親し気に歩き出す。
私は一生懸命追いかけようとするんだけど……
まるで水の中を走ってるみたい。
手も足も、スローモーションみたいなスピードでしか、動かせない。
追いつけない。