ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「ラムちゃん? 今検診終わって、あと会計だけだから。割と早めにそっち行けると思う」

ロビーに並んだ公衆電話から、今日開催のイベントにこれから向かうことを告げると、受話器越しに心配そうな声が聞こえてきた。

『飛鳥さん、ほんとに大丈夫ですよ? 昨日の今日だし、部長からも無理させるなって言われてるし……あたしだけでも……』
「平気平気。ずっと前から、いろんなところで行きますって言いまくっちゃったから。挨拶だけはしておかないと」

直接向かえるように、通勤用のセットアップワンピース着てきたしね。

『ほんと飛鳥さん、すごいなー。あたし、飛鳥さんの後なんて勤まる気がしませーん……』
ラムちゃんの下がりきった眉が、目に見えるようだった。

昨日、私が早退した後のこと。
あのお姫様抱っこを目撃した新入社員が、部長と私の関係について、社内で声高に噂してたらしく。見かねた部長が、私の妊娠を公表したのだそうだ。

「勝手に話してすまない」という部長からの謝罪メールに続いて。
私の仕事を引き継げ、と厳命されたラムちゃんからも、慌てふためいたメッセージが届いていた。
気づいたのは全部、ギャリオンホテルから戻ってきた深夜だったけど。

「そんなこと言わないで。頼りにしてるんだから」
『ふぇーい……』

情けない返事を苦笑交じりに聞きながら、電話を終える。

ラムちゃんには申し訳ないけど、ライアンがいつ戻ってくるのかわからない以上、私は一人で子育てするくらいの覚悟をしておかなくちゃならないから。
誰かに助けてもらわないと、絶対無理なのだ。

お願い、頑張ってラムちゃん!
緑色の電話に向かって、祈るように両手を合わせた。

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