ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
――驚かされましたねえ、チェンさんの交際宣言には。
ロビーのざわめきの中から、突然聞き覚えのあるワードが耳に飛び込んできて、ビクッと振り返った。
大型テレビに映っていたのは、並んで歩くライアンとシンシアだ。
――映像は、今朝の成田空港の様子ですね。アメリカへ帰られるチェンさんを、御曹司自ら見送りに来たようです。
――関係者の話によりますと、交際宣言が飛び出したのは昨夜都内で行われたファンミーティング、ということなんですが。いやぁ、お幸せそうですねえ。
ワイドショーのMCが、したり顔で語ると。
女性コメンテーターが口を尖らせた。
――やっぱり美人って得だと思う。こんないい男を捕まえちゃうんだから。
「あの御曹司って、この前何とかいう女優さんと付き合ってた人でしょ?」
「あら、モデルじゃなかった?」
「そうだった? 何にせよ、いくら顔がよくてもこんな男はダメよ。浮気癖なんて絶対なおりゃしないんだから。うちの娘がこんなの連れてきたら、塩撒いて追い返すわね」
テレビの真ん前に陣取って、大声で話す中年女性たち。
その内容に反論したくなる気持ちをぐっと抑え、唇を結んだ。
わからない。シンシアの望み通り、結局彼女と付き合うつもりなら……
イライザや他の女性たちと、デートを繰り返したのはなぜ?
女ったらしだって噂が広まって、評判が地に落ちることはわかりきっていたはずなのに。彼は、それで平気なの?
「74番の方、会計窓口へどうぞ」
なんだかすべてのことが腑に落ちないって言うか……すっきりしない。
……でも、信じてるから。
私だけはあなたのこと、信じてる。
画面に映った美貌の主へ心の中で強く語り掛けて、歩き出した。