ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「なんだ、違う……」

身構えた身体が、風船の空気が抜けるみたいに、どっと緩んだ。

確かにそれはスーツ姿の男性だったけど、ニセ秘書とは似ても似つかぬ容貌だったから。


まぁ、そんなに都合よくいくはずないわよね。


バクバクと動揺する胸を押さえて、独り言ちる。

でも……顔立ちは全然違うけど、やっぱり全体の雰囲気は似てる気がする。
どちらも高級そうなスーツをスマートに着こなしていて、そういう装いが日常的に身体になじんでる感じがある。

なんとなく目を離しがたくて、その姿を追っていると――



再び、鼓動が高鳴るのを感じた。



同じだ。
あの人も、あの時のニセ秘書と同じように、病院の裏手へ向かってる。


でも、あの方向にあるのはスタッフ用の裏口と、裏門だけよ?

患者やお見舞いの客が用事なんてある?
じゃあ、やっぱり職員だろうか。


混乱しながらも、私の足は勝手に列を離れ、男の後を追っていた。

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