ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
こそこそと耳うちされた内容に、私は思わず目をむいた。
VIPルーム……そんなの、考えたこともなかった。
「正面から出入りすると、マスコミに捕まっちゃうでしょう? そういうお忍び用ってわけ。秘書の方は、基本ここから出入りしてるみたいですよ」
どくんどくんどくん……
心臓が、うるさく騒ぎ出す。
もしかしたらあの日ニセ秘書が訪れたのも、VIPルームだったのかもしれない。
「あの、そこにはどなたが……」
「それは言えませんよー。患者さんのプライバシーに関わることですから」
「そうですよね、すみません。変なこと聞いて」
笑いながら頭を動かす。
これ以上の情報を引き出すのは、無理だろうか。
何か……何か。
何とかならない?
これから出勤ですか、
大変ですよねナースの仕事って、……
苦し紛れの会話を続けながら、必死で考える。
出勤時間までまだ余裕があるのか、彼女は不審がりもせず、雑談に応じてくれる。
今がチャンスなのに……
いっそのこと、VIPルームに直接乗り込むか……
ううん、もう無茶はしないって、赤ちゃんに約束したばかりだ。
ぐるぐると頭を働かせ。
いちかばちか、「あの」と切り出した。