ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
11. 春フェス
「あすかさーんっ! こっちでーす!」
「ラムちゃん、お待たせ。ごめんね、遅くなって」
春フェスの開催地、リバティアリーナに到着した私は、入り口で落ち合ったラムちゃんを見るなり――
「いえいえ、ほんとに無理しなくてよかったのにー」
イヤな予感がした。
「……ラムちゃん、何かなそれは」
「あ、これですか? アンダンテのガトーショコラですっ! もぅ口の中で蕩けるって言うか、サイッコー! まだたくさんあったから、飛鳥さんも食べてみてくださいね。他にもですね、あっちにもおすすめが……もう、試食できるとこがいっぱいなんですよっ! さすがはリリィの春フェス、ブースの数半端ないっ!」
身悶えしつつ興奮する彼女から視線を逸らし、こめかみを指でぎゅうぎゅう押した。
「ええと、今日は何のために来たんだっけ?」
「もちろん、クライアントフォローと新規開拓、及び市場リサーチでっす! 任せてくださいよぅ!」
わはは、と豪快に笑いながら胸を張るラムちゃん。
「じゃあ、アンダンテの担当者と名刺交換は? もう済ませた?」
私が聞くと、ピタッと彼女の動きが止まった。
そして「うひひ」と意味不明な笑いと共にジリジリとバックして――
「いぃい、行ってきまぁーーーす!」
どっぴゅん、て背景に書き込みたいような勢いで駆けていく。
「大丈夫かなぁ」
私、彼女をちゃんと一人前に育てられるんだろうか。
なんか……不安しかないんだけどって、ぶるっと身震い。
まぁ、今から心配してもしょうがないか。
無理やり自分を納得させて入口でもらったマップを開き、クライアント企業のブース位置をチェックした。