ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「Dエリアの……この辺だと思うんだけどな」


マップと会場の表示を見比べ、オオタフーズと書かれたブースがないかキョロキョロしていた時だった。

「樋口くーーんっ!!」

後ろから足音が近づいてきた。
カツカツって床を削るような勢いでやってきて……私を追い抜いていく。
大胆なオレンジの花柄をプリントした、デザイナーズワンピースの女性だ。長いウェーブヘアをエレガントにまとめていて、かなりお洒落な雰囲気。

「あ、清水さんご無沙汰しています」

駆け寄る彼女を、前方のブースから出てきた男性が迎えた。
それが樋口さんであることに気づいた私は、お目当てのブースにたどりついたことを知り、ホッと息をついた。

「ねえねえ樋口くんっ、大河原さんは? 大河原さんいないのー? 会場で見かけたって聞いたんだけど!」

女性はブースの中をのぞきこみ、不満そうに声を上げてる。

「ええっと……あれ、おっかしぃなぁ。さっきまでそこに、いたんですけどねー」
「ちょっと! 困るじゃないの、ちゃんと捕まえといてくれなきゃ!!」
「あははは……いやぁ、あの人自由人ですからねー。それよりいいんですか、御社の実演ショー、そろそろ次の回が始まるんじゃ?」
「え? あ、ほんとだ! 仕方ないわねえ。また来るわ! 戻ってきたら、絶対捕まえといてよ!」
「はいはーい」

今日こそ食事に連れてってもらうんだから!
ブツブツ、鼻息荒く独り言ちつつ振り向いたその人は、アラフォーってところかな。色白の美人だ。キビキビしたキャットウォークで、私の脇をすり抜けていく。

「あれ、真杉さんじゃないですか」
振り返ると、樋口さんがぺこりと頭を下げた。
< 176 / 394 >

この作品をシェア

pagetop