ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「今の人、西部電機の広報で、清水千賀子さんって言うんですけど。ご存知ありません?」
「あぁ、彼女が……」

その姿が消えた方角へ目をやって、深く頷いた。
「お噂は何度か」

直接仕事をしたことはないけど、同僚から聞いたことがある。
確か、社長と縁戚関係にあって、平社員にも関わらず絶対的な発言力を持つとかいう人だったっけ。

「大河原さんを探してらっしゃったみたいですけど……いらっしゃらないんですか?」

ライアンとのこと報告したかったのにな、と内心がっかりしながら言うと。

「逃げたんですよ」
うんざり顔の樋口さんが、肩をすくめた。

「逃げた?」
「ほら、前に話したことあったでしょう。大河原のことロックオンしちゃった女性がいるって。さっきの清水女史なんですよ、それ」
「あ、なるほど……」
「彼女が近づいてくると察知するなり、どこかへ行っちゃうんだからなぁ。もうこの際、観念してデートくらいしてあげればいいのに。もしかしたら逆玉かも、じゃないですか」
「あはは……そうですね」

たぶん彼女がどんなに押しても、実家の力をちらつかせても、無駄って気がするけど……

「そういえば真杉さん、飛鳥マジックの方はどうですか? どなたか見つかりそうですか? そしたらオレ、大河原引きずって行きますよ?」

「ええっと、それなんですけど、やっぱりちょっと難しいかなと、……ごめんなさい」

正直、あの切ない恋バナを聞いた後じゃ、他の人を勧める気にはなれない。
大河原さんはまだ、あの恋人のことを想い続けてる。
他の女性に興味なんかないはずだ。

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