ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「そうですかぁ……」

がっくりとうなだれてしまった樋口さんにちょっと申し訳なくて、何かフォローを、と口を開きかけた。
そこへ。


――きゃああっ!
――うっそぉ!
――あっちあっち、見に行こうよ!

どこからか、甲高い歓声が聞こえて。
周囲のママさんたちが、ざわつき出した。

――うそ、本人来てるの?
――今から行って、間に合うかな? 入れるかな?
――とにかく行ってみようよ! 特設ステージだって!


「なんでしょうか?」

興奮して話す人たちが、同じ方向に向かって一斉に歩き出すことに気づいて、私は首を傾げた。

「ショーが始まるんだと思いますよ。ほら、ベルナードさんの」

樋口さんに教えられ、ハッと腕時計に目を落とすと。
ほんとだ、そろそろ時間だ。

「シェルリーズホテル総料理長自ら手作りおやつのレクチャーってすごいですよね。フランスの育児事情トークもあるっていうし。真杉さんも行かれるんですか?」
「はい、ぜひ聞きたいと思っていて」
「じゃあもう行った方がいいですよ。たぶん立ち見も出るんじゃないですか、あの様子だと」

確かにな。
サムさんに挨拶したいけど、無理かも。

また後で寄ります、と慌ただしく樋口さんに頭を下げ、その場を後にした。

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