ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「飛鳥?」


特設ステージを目指していた私は、ふいに自分の名前を呼ばれて足を止めた。
声のした方を見れば――

「雅樹!」

黒のカットソーにジーンズ、手にはカメラ一台、という身軽な格好で、雅樹が近づいてきた。
「仕事なの?」
「そ。イベントレポート用の写真を、編集部に頼まれてて」
「そっか。忙しいんだね」

ほんとに売れっ子だなぁと頬を緩める私を見て、
「お前は……」と口にした彼が、思わせぶりに黙り込んだ。

何、その意味深な目は?

若干疑問を感じつつも、「もちろん仕事」と答える。
「クライアント企業がたくさん出展してるの」

「なんだ、そうなのか。俺はてっきり……」

「てっきり、何?」

「いやその、別に……」
雅樹はしまった、とでも言う風に、ともごもご動く口元を手で覆ってしまった。
怪しい。

「気になるじゃない。何っ?」

「その、だから……あいつに、会うためかと」

「あいつ?」

「知らないのか? ここに来てるって、御曹司が」


とくんっ……


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