ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
「おはよう! ごめんなさい、寝坊しちゃって」
ダイニングのドアを開けながら言うと、キッチンに立っていたライアンが顔を上げた。
「おはよう。全然寝坊じゃないよ。今日は日曜だしね」
爽やかな笑顔を向けられて、全身が弛緩する。
夢で見た、あの冷笑じゃない。
いつもの、彼だ。
明るいキッチンに入っていくと、
フライパンからは、バターがぶくぶくって弾ける賑やかな音が響いていた。
「パンケーキ?」
「そう。あれ、もしかして食べられない?」
悪阻のことを気にしてくれてるんだろう。
心配顔を見せる彼に、笑いながら首を振る。
「ううん、平気。食べたいな」
「よかった! ほら、ベビーにも今からカナダ産メープルシロップの美味しさを教えておきたくて。胎教って言うヤツ?」
満面の笑みで言われて……首を傾げてしまった。
「そういうの、胎教って言うのかな。胎教って、ええと音楽とか……」
「え、味覚は違うの?」
「知らないわよ」
顔を見合わせて、ぷぷっと笑う。
ほら、ね。
こんな他愛もない会話だけで、悪夢なんかあっという間にバターみたいにトロトロ、溶けていく。
大丈夫だよね。
大丈夫――……