ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

向こうから一人の女性が、息せき切って駆けてくるのが見える。
ツイードのジャケットに黒のパンツを合わせたスリムな人、あれは――

「柴田さん!」

クライアントへの挨拶周りをすっかり忘れていたことを思い出し、これじゃラムちゃんのこと言えないなと、急いで頭を下げた。

「すみませんっブースに伺うのが遅く――」

「ずっと探してたのよっ」
言葉を遮った柴田さんは、はぁはぁと肩で息をしながら、焦ったような早口で言う。

「携帯鳴らしたのに出てくれないしっ」

よくよく見れば、額にはうっすら汗が滲んでるし……。
どうしたんだろう? なんだかいつもの彼女らしくないけど。

「すすみません、病院にいたので電源切ったままだったかも」

「病院? どこか悪いところでも――……」

突然。
言葉を切った柴田さんが、ぽかんと開けた口に両手を当てて、息をのむ。

「あの……柴田さん?」

彼女を見返して、その視線が私のカバンに注がれていることを知り……ギクッとした。

マタニティマーク!


一気に以前聞いた話がよみがえってきて、ギクリとした。
そうだった。
柴田さんは、病気が原因で妊娠が……

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