ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
あのコースターを見つけてから、そろそろ1週間。
私は何も聞けなくて。
彼も、話してくれなくて……
といっても、じっくり話す時間がとれてない、っていうのも原因ではある。
彼はこの1週間、とても忙しそうだったから。
本業、つまりカレントウェブで関わってる仕事が、大詰めを迎えているのだそうだ。
帰ってくる時間は、私より遅くて。
朝は、私が通勤電車を早めたせいですれ違い。
ほとんど顔を合わせるチャンスがなかったし、
余計なことを言って、煩わせたくもなかったし、
結局、そのまま何事もなかったように日々過ごしてる。
もしあれが、シンシアの香水だとしたら。
彼女とライアンが、会っていたのだとしたら……
もちろん私に、会うな、なんて言う権利はない。
でも……
それならそうって、言ってくれればいいのに。
前にも同じことで揉めたじゃない。
忘れちゃったの――?
器用にパンケーキをくるりとひっくり返し、ふふんとドヤ顔で私を流し見るライアンに笑い返して。
頭の隅にこびりつく黒い疑問――内ポケットの中まで香りが移るほど、2人は近づいたんだろうか……――を、必死で押し隠した。