ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「もうリーさん、全力疾走するんだから……全然追いつけなくて。それで? もう仲直りはできたの?」

弾んだ息の合間に、白い歯を見せてニコッと微笑まれて。
ようやく、なんとなく理解できた。
彼女が、ライアンに何か妙なことを伝えたんだなって。

「パパとママが喧嘩なんて、赤ちゃん心配しちゃうでしょ」

「いえ、柴田さん私たちはあの――」
「真杉さんて奥ゆかしいのね。ラブレターなんてアナログな手段で仲直りしようとするなんて! 若い頃思い出して、ぐっときちゃったわぁ」

「い、いや、あれはラブレターじゃな――」
「でもやっぱり、直接伝えた方がいいと思って。はいこれ、返すわね。中は見てないから安心して」
問答無用で、私の手に戻ってくる例の手紙。

「あなたが倒れたって言った時のリーさん、持ってた物全部落としちゃって。ちょっと可哀そうなくらい動揺してたわよ。だから真杉さん、大丈夫。間違いなくあなたは真剣に想われてる。何があったかは知らないけど、たぶんいろいろ誤解があるんじゃないかしら」
「あ、いやその……私たちは、あの――」

ええと、柴田さんには何をどこまで話してたっけ……
アワアワと昔の記憶を探って頭をひねる間にも。

「じゃ、お邪魔虫はさっさと消えるわね」
彼女はそう言って、踵を返してしまう。

「あ、ここ、うちが備品庫として借りた部屋なの。さっき補充したところだから、2時間は誰もこないわ」
「どうぞごゆっくり」と肩越しにヒラヒラ、手を振って。
私に口を挟む隙を与えないまま、その姿はついにドアの向こうに消えてしまった。


パタン――

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