ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
「え、いへひゃい(行けない)?」
パンケーキをぱくんと頬張った格好のまま、目を見開いた。
「うん、ごめん。昨夜突然連絡が入ってさ。今日しか空いてる日がないって言うから」
「そうなんだ……」
口の中に充満していたシロップの甘みが、急に味気なく感じて。
フォークをゆるゆるって下ろした。
今日は、午後から奈央さんに買い物につき合ってもらう約束をしてて。
拓巳さんや優羽ちゃんも来るから、ライアンも一緒にって……楽しみにしてたのに。
彼はアメリカから来日する友達を、東京観光に連れて行かなきゃならないらしい。
「拓巳には僕から謝るから。みんなで楽しんできて」
本当に申し訳なさそうに日本風に手を合わせる彼に、強いことは言えないけど。
久しぶりに、一緒に過ごせると思ったのに……
なんて。
子どもっぽく拗ねてる自分に気づいて、こっそり苦笑する。
この前まで、別れる別れないって揉めてた相手に、
なにわがままなこと言ってるんだろう。
「わかった。じゃあ私だけ、行ってくるね」
「ほんと、ごめん。疲れたり、気分が悪くなったら、すぐに休んで。拓巳にもよく言っておくけど、ドライブ中でも構わずね? あぁでもほんとは、外出なんてさせたくないんだけど……」
この部屋に戻ってこられただけで、充分幸せだ。
心の中で自分に言い聞かせながら、「妊娠は病気じゃないわよ」って唇の端を持ち上げた。