ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
上半身をひねってふりかえると、視線がふいっと、気まずそうに逸らされた。
「ライアン……?」
見つめる先、形のいい唇から吐息が漏れる。
「強硬手段に出るってことだと思う。なかなか僕が、シンガポールに来ないから」
「強硬手段……子どもを後継者に、っていうのが?」
ライアンはこくりと頷いた。
「総帥は、僕が養子だってことを知ってる。家族ってものに憧れを持っていて、大切にしてるってこともね。だから子どもを人質にすれば、僕をシンガポールに呼び寄せることができるって考えたんじゃないかな」
「っ……そん、な……」
子どもを人質って、いつの時代の話よ。
「本当に後継者にするしないはともかく、そういう噂を流しておけば、周りが勝手に騒ぎ出すだろうからね」
実際、ライアンのところには、自分の娘や妹と会ってみないかというメールが、各国のグループ重役たちから連日のように届くようになったのだと聞かされて。
怒りとか驚きとかいうより以前に、もう呆れて何も言えない。
ギュッと拳を握りしめた私に気づいたライアンが、「落ち着いて飛鳥」と微笑んだ。
「これは全部、僕の推測に過ぎない。正式発表があったわけでもないし……総帥の真意はわからない。別の誰かが流したのかもしれないし。でも、ここで大切なのは、シンシアがその噂を信じたに違いないってことなんだ。つまり彼女が欲しいのは、僕の子どもじゃなくて、リーズグループ次期総帥の母親、という地位なんだよ」