ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
――じゃあ気にしないのね? 関係ないわたしが、あのマジメな彼女にしゃべってしまっても。あなたが、人殺しだって。
僕が誰を殺したって?
まさか……黄のことを言ってるのか?
驚きで固まっていた体が、次の瞬間、怒りで戦慄いた。
自分の勘違いをさも唯一の真実みたいに話すシンシアに、血管がブチ切れそうだった。
冗談じゃない、そんなことを飛鳥に話されたら……
もちろん、彼女が信じるとは思わないけど。
せっかく取り戻した彼女との生活を、乱されかねない。
一言、直接言ってやらなければと、指定されたバーへ行き――
――子どもが産みたいのよ。母親になりたいの。
こちらが話し始める前にさらりと言われ、唖然とした。
――君が子どもを欲しがるなんて、石でも降ってくるんじゃないか?
今まで散々、子どもなんて邪魔だの、欲しがる女の気が知れないだの言ってたくせに。
どうせ、いつもの気まぐれだろうけど。
興味本位で望まれるベビーも気の毒な……
いやそれよりも、人殺し云々って話は、どこへ行ったんだろう?
勢いを削がれた僕はグラスの中身を見つめ。
「精子バンクに頼めば?」と適当に答えておいた。
――ダメよ、登録情報なんてアテにならないわ。わたしが欲しいのは、確実に美しく賢く成長する子。道行く人が振り返るような、ね。
子どもをアクセサリーか何かだと思ってるんだろうか、彼女は。
肩にぺたりと貼り付く赤い指先が、おぞましかった。
飛鳥の顔が見たい。彼女が待つ、あの部屋へ早く帰りたい。
きっと笑って言ってくれるだろう、「お帰りなさい」って……
――わからないの? あなたの子が欲しいのよ。