ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

――これ、中国語? 違うわね、なあに?
――わかった。

とっさに、言葉が飛び出していた。

――え?

――今の話については、ちょっと考えてみるよ。“彼女たち”にあることないこと吹き込まれるのは嫌だからね。

――は? 何よ、“彼女たち”って? あの日本人の女は?

――とっくに終わったよ。僕が落ち込んでたの、知ってるだろ?


じっくりと考えたわけじゃない。
ただ、このコースターから彼女の興味をそらせればいい、その程度だった。

――もう他の女がいるってわけ?

――日本には口説きがいのある美女が多いからね。それに、僕がたった一人だけで我慢できるような男じゃないと言ったのは、君じゃなかったっけ? 


なんとか余裕ぶってコースターを取り返し、足早に店を出た。


どうする。
最悪の予想が、当たってしまったら。
あんなバカげた噂を真に受けて、自分の子を次期総帥にと考えているとしたら。

彼女は、思い通りにならないと気が済まない女王様だ。
もし、飛鳥の妊娠を知ったら……

冷たい汗を拭い、黒い空を見上げた。
月のない、静かな夜だった。

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