ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
「拓巳、どこかしら……携帯に連絡してみるね」
ぐるっと見回し、ごめんね、と眉を下げた奈央さんが、カバンの中をごそごそ探り始めた。
そこへ。
「ねえねえ、シングルファーザーだと思う?」
「えー若そうだったし、めちゃくちゃイケメンだったよ?」
「どこかで見たことあるような気がしない?」
すれ違ったママ友グループの会話にピンときた私は、携帯を取り出した奈央さんの手を掴んで止めた。
ママたちが振り返り振り返りしてる方角へ目をやれば……やっぱり。
「どうしたの、飛鳥ちゃん」
不思議そうな彼女に、目線で“そっち”を示した。
そこには――楽しそうに話しかけながら、甲斐甲斐しく優羽ちゃんの世話をやく拓巳さんがいた。
ベンチに並んで座って、何かを食べさせてるみたい。
イケメンって、たとえ子どものヨダレ拭いていたって、サマになるもんなのね。
妙なところに感心しながら、よくよく見渡せば。
そこだけ、周りからの熱視線がすごかった。
隣にいる自分の旦那さん放って、見惚れてるママもいる。
「子どもダシにしてさ、声かけてみよっか」
「うちの子も同い年なんですーとか? やってみる?」
なかなかに不穏な会話まで聞こえたりして。
ちょっと心配になりながら横を見ると、
「歩き回らずに済んでよかったわねー」
奈央さんはあっけらかんと喜んでる。