ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
15. 戦い
生臭い匂い……
まとわりつくような、重たく湿った風。
古い……倉庫、かな。
プレハブの建物が建て込んだ寂れた場所で車から降ろされた私は、なんとなく海の近くだろうって思った。
背後から石塚に促され、最上の後を追って歩き出す。
どのあたりだろう。
何か手掛かりはないかと、こっそり見渡しても……同じような建物が続いてるだけだ。
ただ、連なる屋根の背後に広がる空は茜色に染まっていて、まだ明るい。
時間の感覚はないけど、それほど長く乗ってたわけじゃないし。
きっと都内から出てはいないと思う。おそらく湾岸のどこか……
歩きつつ、そんなことを考えていたら。
最上は、とある倉庫の前で止まった。
慣れた手つきで、錆びついた赤銅色のドアを押し開ける。
彼の後から頭を下げて中に入ると、埃や油や、いろんなものが交じり合った独特の臭いが鼻をついた。
2階層以上、余裕でありそうだ。
高く吹き抜けになった内部には、大小いろんなサイズの段ボールがうず高く積まれ、フォークリフトが放置されてる。
ぽつぽつと照明はついてるけど、閑散としていて、人の気配はないみたい。
週末でお休みなのかな。
これじゃ、声を上げても助けが来る確率は高くなさそう――なんて。
比較的落ち着いて考えている自分に驚く。
たぶん、ここに来るまで、拘束されたり暴力を振るわれたりといった扱いがなかったからかもしれない。
Eトレーディングといえば、雑誌にも取り上げられるような企業だし。
もしかしたら紳士的に取引をしようとしてくれるんじゃないか、その内容によっては、無事に帰れるんじゃないか……
希望的観測は、その先の細い廊下を通って案内された部屋で打ち砕かれた。