ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
事務所……というよりは社長室、といった感じの部屋だった。
部屋の中央には革張りのソファセット。
そして奥には、倉庫の雰囲気にそぐわない、重厚な黒光りするデスクがあって。
その上に大胆にお尻を乗せた人物が、眺めていた自分の指先から視線を上げた。
地味な黒のパンツスーツに包まれていてさえ際立つ、その華やかな顔立ち――
「……シンシア!」
まさか本人がいるとは思わず、言葉に詰まった。
「アメリカに、帰ったはずじゃ……」
「帰るはずだったわよ。デートの予定がパァだわ。まさか、あんたがもう妊娠してたなんて」
忌々し気に睨まれて、ごくっと喉が鳴った。
やっぱりライアンの言う通りだった。
彼女は私の妊娠を、歓迎していない。
「座りなさい」
最上に顎でソファを示されて。
そっと後ろを見れば、ドアには……石塚。
ここは1階だから、窓から逃げられないこともないけど。
たどり着く前に捕まるだろうな。
無茶をしたら、赤ちゃんの命が危なくなってしまう。
今は自分のことより、赤ちゃんの安全を考えなくちゃ。
とにかく、時間を稼ごう。
連絡が通じなければ、ライアンもきっとおかしいって気づいてくれる。
それまで頑張ろう。
この子を守れるのは、私だけなんだから。
言い聞かせるように心の中で繰り返して、ソファの端に浅く腰かけた。