ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
――オレのクライアントの提携先なんだけど、一件新規のとこがさ、お前ご指名で仕事を頼みたいって言ってきてて。
――お前産休だもんな。途中で担当変わらない方が……先方に確認してみる。
そうか、と唇を噛んだ。
「坂田から、私が産休だって聞いて……わかったんですね? 私たちが別れたりしてないって」
意外なことに、最上は「いや、違う」とかぶりを振った。
「疑ったことは確かだが、父親は別の男だろうと考えていた。それが原因で君たちが別れた、とさえ思ったよ。彼のプレイボーイっぷりは昔から有名だが、一度たりとも相手を孕ませるようなミスは犯さなかったからね」
じゃあどうして?
そんな私の心の声が聞こえたみたいに、男は機嫌よく口の端を上げ、私を覗きこんだ。
「昨夜のパーティーで君を見かけた時、なぜここにいるのだろうと考え……万が一という可能性に思い至ったのだよ。それで確かめることにしたのさ。君が目の前で危険な目に遭ったら、はたして彼はどんな行動をとるだろうかとね」
危険な、目に?
その言葉にハッとした。
「まさか、花瓶を倒したのって……!?」
「おいおい、早とちりしないでくれ。ちゃんと犯人は名乗り出て、弁償もしただろう。わたしはシロだよ? ……まぁ、真っ白だと、言う気はないが」
くつくつと肩を揺する男に、吐き気がした。
ようするに――誰かに、お金積んだかしてやらせたんだ、こいつが。