ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
そして陽が傾きかけた頃、拓巳さんが運転するミニバンに乗り込み、一路帰宅。
後部座席に腰を下ろし。
熟睡中の優羽ちゃんが座るチャイルドシートの隣で、シートベルトをしめていると――
「奈央さん、帰りにスーパー寄る?」
「あ、お願い。朝のパン切らしてるから買いたい」
「了解」
前方2人のやり取りが聞こえてきた。
そうそう、そういえば……ずっと気になってたのよね。
「拓巳さんて、“奈央さん”、って呼ぶんですね」
吾妻夫妻も奈央さんの方が年上。
だから、独身時代の呼び方を続けてるってことはわかるけど。
(ライアンが初対面から「飛鳥」呼びだったのは、彼が外国人のせいだろう)
結婚して子どもが生まれて……
それでも呼び捨てにしたり、ママとかお母さんとか、別の呼び方にしたりしないご主人って、友達にはあまりいなくて。
なんだかすごく新鮮に響いてしまう。
「ほらね。だからずっと、呼び捨てでいいって言ってるのに」
嘆息しながら言ったのは、助手席の奈央さんだ。
「仕方ないよ。奈央さんは奈央さんなんだから」
「仕方なくないわよ。いつもこっちが年上だってことをアピールされてるみたいで嫌なんだから」
「今更無理。そんな顔しても変えません」
笑い交じりの声に続いて。
ぷうっと膨らんでる奈央さんの頬を、運転席から伸びた手が愛しそうに撫でていく。
車内の空気が、一瞬ピンク色に見えてドキドキしちゃった。
拓巳さんて実は激甘なんだな。奈央さん限定で。
見た目はクールそうだけど。