ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
「ライアンは飛鳥ちゃんのこと、飛鳥って呼んでるのに。飛鳥ちゃんだって、その方が距離が近く感じて、嬉しいでしょ?」
ね? と話を振られたけど、きっぱり首を振った。
「お二人はこのままでいいと思います。名前の中に収まりきらない愛情が、敬称の方まであふれてる感じがするから」
私を“飛鳥さん”って呼んでくれる時とは、何か違う。
尊敬っていうか、敬愛っていうか。
特別な響きがする、って私は力説したんだけど。
「飛鳥さん、それライアンには言わない方がいいですよ」
拓巳さんが、バックミラー越しに苦笑を寄越した。
「え? なんでですか?」
「絶対『じゃあ僕も飛鳥さんって呼ぶ』って言い出しますよ。『僕の愛情だって“飛鳥”に収まりきらないよ』とかなんとか。妙なところで対抗しようとするから、あいつ」
“飛鳥さん”?
ライアンが……私を?
拓巳さんに対抗して?
「「言うかも!」」
車内で爆笑が弾けた。
途端。
「ぅ、……ぅ」
声が大きかったのか、優羽ちゃんの眉間にしわが寄り、むむっとしかめっ面に。
慌てて「しぃいいっ」と大人たちへ合図する。
……よかった、平気だったみたい。
天使はふにゃりと唇を半分開いたまま、再びすうすう、舟をこぎ始めた。
「大丈夫です。また寝ちゃいました」
「ふふっやっぱり結構疲れてたのね」