ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
壁の時計を見上げると――21時過ぎだ。
ほんとに遅いな。
頬杖をついて、ラップをかけた2人分の食事を眺める。
先に食べててって言われたけど……
「いろいろ、話したいのに」
でも今日は……仕方ないか。
伊藤くんに会ってくるって言ってたから。
ほんのひと月余りだけれど、辛い別れを経験した私とライアン。
その拗れた関係が奇跡的に元に戻ったのが、つい2日前。
すぐにウィークリーマンションを引き払って懐かしいマンションに帰ってきて。
そして今日は、産婦人科へ。
私の方はそんなこんなでバタバタしてたから、じっくり考えることを放棄してたけど。
ライアンは、そうじゃなかったみたい。
私たちが別れる原因となった人物を突き止めるべく、伊藤くんに協力を仰ぐことにしたらしい。
伊藤くん――伊藤貴志は、リーズグループのSD(シークレットデパートメント)という調査部署に所属してる人だ。
今回はプライベートな依頼だから、SDの力を使えるわけじゃないし……どこまで調べられるかはわからないみたいだけど。
それでも、素人よりは期待できると思うよ、って言ってた。
私も、早くはっきりしたことが知りたくて、賛成した。
何もかも、わからないことだらけだったから。
張さんを名乗った、偽物の秘書。
私を見張っていた、野球帽の男。
そして、おそらく彼らを動かしてる人物がいるはずで……
わからないまま、どこかで何かが進んでいる気がして、ものすごく気持ちが悪かった。