ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「ほんとは、バレンタインの時に渡すはずだったんだけどね」

悪戯っぽく言われて、思わず苦笑い。


バレンタイン……あの時はもう、彼とは終わりだと思ってた。
それから、いろんなことがあったなぁ。
ほんの数か月なのに、大昔の出来事みたいだ。


「飛鳥」

再び呼ばれて、顔を上げる。

彼の手が、蓋をそっと閉め。
私の手に握らせた。

「?」

はめて……くれないのかな。
2人きりになってから、とか?

「まだそれ、指にはめないで」
ささやくように、彼が言う。

「え?」

「帰ってきたら、僕がはめるから。左の薬指に。それまで、待ってて」

帰ってきたら……
その言葉に、胸が締め付けられるように切なくなった。

行かないで。

そんな子どもみたいな我がままを、喉の奥へなんとか飲み下して。
その広い胸に額をこつんとぶつけ、こくりと首を上下させた。

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