ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

ぴたりと重ね合わせた唇から、時折漏れる艶っぽい声。
苦し気に眉を寄せる飛鳥は、それでも決して嫌がることなく、応えようと口を開いてくれる。

彼女も僕を求めていることを確かに感じ取って、
全身へ、何度も歓喜の波が打ち寄せた。

愛してるよ。
愛してる。

月が音もなく満ちていくような、まろやかな幸福感。
こんな感情、知らなかった。
自分よりも何よりも、愛しい存在……。


もう、限界が近かった。

きつくシーツを掴む細い指へ、自分の指を絡めるように重ねて、握りこむ。

――ライ、……ぁあ、っ……

寄り添うように静かに、体を重ねた。
そして僕は、彼女の中へ……――



コンコン

ビクッと椅子の上で座りなおし、態勢を整える僕の目の前。
精緻な彫刻が施された飴色のドアが重たげに開き――褐色の肌に鮮やかなグリーンのスーツを着こなした女性が入ってきた。
<失礼いたします>

<あぁマリア>

< 309 / 394 >

この作品をシェア

pagetop