ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

浮かんだ疑問を、急いで打ち消した。

きっと関わってる案件が違うってことよね。
だから、拓巳さんとは帰宅時間も違うってこと。

きっと、そう。


口の中で独り言ちて――……顔をあげたのは、全くの偶然だった。


その場所がどこかは、覚えてない。
そもそも、知らない場所だった。

でもとにかく私はその時顔をあげて、窓の外、それを見た。


どこかの街角。

ヨーロッパ系の大柄な男性が、歩道を歩いてる。
よく似た金髪……だと思って……息をのんだ。

似てるんじゃない。
本人だ。

ライアンがいた。
表情は、遠くてわからない。

鼓動が再び不気味な音をたてたのは、その腕に女性が抱き着いていたから。

ふわりとなびく長い黒髪に、顔が強張る。
まさか……

息を止めた、ほんの一瞬。
過ぎる間際に、彼女の顔が見えた。


それは――シンシアではなかった。



< 31 / 394 >

この作品をシェア

pagetop