ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
年齢はたぶん、僕と同じくらい。
アフリカの血が入っているという彼女の、濃いまつ毛に縁どられた大きな瞳がじっと僕を見つめた。
<あら、お休み中でした?>
よほどの間抜け面をしていたかと、苦笑しながら首を振る。
<ぼんやりしてただけ。本格的に寝てしまう前に、君が来てくれてよかったよ>
<少しお疲れなのかと……お休みになれるように、時間を調整しましょうか>
<いや、その必要はないよ。次の予定は?>
<30分後に、ロッテルダムスチールのCEOと来期事業提携についての会議です>
<わかった。資料は――>
<こちらに>
受け取ろうとデスク越しに伸ばした手は、念入りにケアしたらしい指に捕まれた。
<……マリア?>
<グループの全社員を代表して、感謝申し上げますわ。ここに残ってくださったこと。あなたがいらっしゃらなかったら、どうなっていたか……>
言葉以上の熱がこもる指先に気づかないふりをして、
おざなりな笑みを浮かべ、握手でごまかした。
<それはよかった。資料を確認したいから、少し席をはずしてくれるかな>
<……畏まりました>
落胆を笑顔で取り繕ったマリアから今度こそ資料を受け取り、
その姿がドアの向こうに消えてしまうと。
スプリングの効いたチェアにゆっくりと沈み込む。
室内へと目をやると、年代物の白い家具たちが眩しい陽光の中に浮かびあがった。