ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
オールドジャックス、通称ジャックスという名で親しまれているここは、
(ジャックという男の土地を買いとって建てたかららしい)
リーズコーポレーション本社ビルのすぐ隣にあり、リーズグループ歴代総帥の住居と執務室を兼ねた建物だ。
1900年代初頭に建築されたコロニアル調の邸宅で、各部屋はもちろん、広大な庭やプール、回廊の柱一本一本に至るまで施された美しい装飾は、見事の一言に尽きる。
時折観光客がカメラ片手に迷い込もうとするくらい(ガードマンに阻止されるが)、歴史的価値も高い建造物らしいけど……エアコンの効きがあまりよくないのが難点だ。
ジャケットなんて、とてもじゃないが着てられない。
高い天井で申し訳なさそうにくるくる回るファンを見上げ、シャツのボタンをはずして首まわりを緩めてから、ふぅと息をついた。
東京やバンクーバーの冬が懐かしい。
寝不足のせいだろうか。
太陽の光が、暑いだけでなく突き刺すように痛く感じる。
せめてカーテンを、と腰を上げ――
窓の外に目をやれば、競うように枝葉を伸ばした木々やカラフルな花々が生い茂る中庭が見える。
勢いのあるその濃い緑は、やはり東京の上品に仕上げられた庭木とは別物で。
ここが全く違う気候帯に属する国であることを思い知らされる。
シンガポールに来て、2カ月が過ぎ――僕は総帥代理というよくわからない役目を押し付けられ、足掻いているところだった。