ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
そもそもの発端は、僕がチャンギ国際空港へ降り立ったその日に起こった。
迎えに来たリムジンに乗ってジャックスへ向かう途中にかかってきた電話で、総帥が倒れて救急搬送されたことを知ったのだ。
急遽目的地を変更して、病院へ向かい……ドクターから、彼が重い病で極秘に闘病中だったことを聞かされた時も、まだ僕は半信半疑だった。
すべてが彼独特のジョークなんじゃないかって。
けれどさすがに、ICUのベッドの上、チューブから送られる酸素で呼吸するその人を見たら、それが現実だと受け止めざるをえなかった。
総帥が目を覚ますまで待つか、あるいは一度日本に帰るか……?
今後の行動を決めかねていると。
一人の女性がやってきた――マリアだ。
総帥秘書であると名乗った彼女に案内されて、本社で開かれた緊急取締役会へ参加することになった僕は、そこで総帥の意志として、総帥代理職への就任を要請された。
なんでも数日前、総帥自身が会議中に述べたそうなんだ――自分にもしものことがあった場合は、ライアン・リーを自分の代理とし、全員が一丸となって彼を支えること、と。
もちろんすぐに断った。
でも……
浮足立ち、混乱する会議は、見ていられなかった。
総帥は強烈なカリスマ性を持つ人だったから、その人が失われるかもしれないという恐怖にみんなが怯え、唯一のその意志――僕を総帥代理にすること――にすがりついているように見えた。
もちろん反対意見もあったけれど、大多数の取締役が僕を支持した。
僕自身の能力を評価してくれた、というより、そうすることが総帥の回復につながる道だと信じた、と言う方が正解かもしれない。
最終的に、世界規模の混乱を避けるため、と詰め寄られ。
総帥の容態がはっきりするまで、という条件で引き受けた。