ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

<起きてらっしゃって、いいんですか>


広東語で声をかけると、ぎょろりと大きいばかりの黒い目が動いた。
そこに以前と変わらない鋭い光を見つけた僕は、なんとなくホッと肩の力を抜いた。

<報告は聞いている。仕事には、慣れてきたようだな>

よかった。
声にもまだ十分、張りがある。

<慣れるなんてとんでもない。僕には荷が重すぎます。早く退院して、戻ってきていただかないと>

<その必要はない>

ばっさりと言われ、一瞬言葉に詰まった。

<必要が、ない、とは……?>

<シンガポールに来たということは、わしの跡を継ぐ決心がついたということだろう。来週には後継者はお前だと、マスコミを通じて全世界へ発表する>

ある程度は予想していた展開だったけれど……
やはり本気だったのか、この人は。


<あぁそれから、そいつを見ておけ>


視線をたどると、リビングのローテーブルに、雑誌が入るくらいの大判の茶封筒が置かれている。

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