ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

隣へしゃがみこんだ男は、僕の手から小石を取り上げながら楽しそうに言った。

――例えば……どうして鳥は空を飛べると思う?


どうして……?
僕は、黄のお気に入りの小貝(シャオベイ)の、小さな体を思い浮かべた。

――ええと、羽根があるから?

――そう。背中に翼があるから……この漢字は「飛」ぶ。
ほら、そう見えてこないかい? 

男が書いてみせたのは、簡体字の「飛」(フェイ)。
達筆なその文字に魅入られていると……ふと軽やかな羽ばたきが、聞こえた気がした。

ハッと顔を上げると澄んだ黒い瞳とぶつかって、びくりと肩が揺れた。


――すべての漢字には意味があるんだ。古代の人からのメッセージだよ。素敵だと思わない?


恐怖も侮蔑も含んでいない、真っすぐに届く眼差し。
マフィアの子として育った僕に、そんな風に笑いかけてくれる大人は、初めてだった。


僕は、自分が笑っていることに気づいた。


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